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つくよみの唄

21世紀の半ば、大きな戦争があった。

戦争など起こさぬし、起こるはずもない、と云はれ続けた国の片隅から勃発した争いは、やがて国土を包み、それは他国に飛び火する前に「内戦」となった。隣国からの弾道ミサイルを懸念してゐた国民は、内部で東西に分かれて激しく戦火を散らした。かつて世界のどの国より安全で自由だったはずの小さな国が、隣の県に移ることさえ困難な紛争の国となった。

お決まりの、他国による軍事介入があり、戦闘は激化し、多くの被災民が西へ東へ逃げ惑い、そのうち、何故この戦争が起こったか、など、皆忘れ果てたころ、なんとなく「終戦」を迎えた。追い討ちをかけるやうに、あの未曾有の「天災」が起こった。あとに残ったのは、荒廃した国土と、職業も肩書きも失った、かつて呑気な自由と安全を謳歌してゐた、腑抜けた人民だけだった。
よぅするに、人類はまた性懲りもなく、時代を繰り返したのである。

荒廃した国家は必死に立て直しを図ったが、戦争とそれに続いた災害へのあまりの不甲斐なさに、人民は完全に政治を見放してゐた。経済は二重化し、「一部富裕層」と「そうでないもの」の暮らしは完全に二部された社会が始まった。
富裕層は高層ビルとそれに付随する施設に暮らし、中には「土の大地」を踏まずに一生を終えるものすらゐた。そうでないものは残された土地に新天地を求め、厳しくも逞しく、ある意味ではそれを謳歌して生きた。

 

「西」自治区 H-73市に、「椎修」と云ふちぃさな居酒屋があった。

小鉢に入った酒の肴が10種類程度と、地味な酒が置いてあるだけの店だが、そこそこに繁盛してゐるらしく、客が絶えることはない。歳の頃50代近辺と思はれる男女が切り盛りしてゐる。主に男が厨房に立ち、女が給仕をしてゐる。