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今夜、ペンギンカフェで 2

私はフと足を止めた。

今日の今日まで気に留めてなかった、暗い道の向こう側・・・、緩やかにカーブした道の見切れるところ・・辺りになにやらぼんやりと暖色の光が見えた。ほぼ毎日この道を通ってゐるが、その明かりを意識したのは今夜が初めてだった。づっと気づかずにゐたのか、それとも最近灯った灯りなのか・・・?。

私は自然にその灯りに向かってゐた。
かつてはそれなりに賑やかであっただらう、打ち捨てられた商店街の端っこに、その店はあった。
通りに面した部分はほぼ全面ガラス張りの、小さな店だった。
「ペンギン・カフェ」
とAI文字で書かれたネオンサインが点ってゐる。通りの向こうからも確認できた暖色の灯りはそのネオンサインではなく、ガラス張りの店内のあちこちに設置されてゐるランプによるものだったらしい。

こんなところに、こんな店が・・・。

全面ガラス張りの店内を覗くと、カウンターに女性らしき人影が一つ、と、カウンターの中に中年男性の姿が一人確認できた。二人の間には距離があり、常連客と店との馴れ合いを感じさせないその距離には好感を覚える。どうせ家に帰っても一人酒を飲んで寝るだけだ。たまには寄り道もよからう、と、私はその店・・・ペンギン・カフェのドアを開いた。

「いらっしゃいませ」

カウンターの中の男性が、落ち着いたバリトンの声で迎えてくれた。

私はコートを脱ぎながらカウンターの隅、一人の女性客が座ってゐるのと反対側の端のストゥールに腰掛けた。女性客がチラリと私の方を見る気配があった。私もその女性を見た。目が合った。そして私の思考が停止した。

その女性はしづか に瓜二つだった。